ポール・マッカートニー一考
ザ・ビートルズはメンバー全員が、誰の影響を受けたかを公に詳らかにしている。曰く、エルヴィス・プレスリー、チャック・ベリー、リトル・リチャード、バディ・ホリー、ボブ・ディラン、、、。が、しかし彼らがあまりその影響を公言していないミュージシャンがいる。
エヴァリー・ブラザーズ。
全く触れていないわけではない。後年はかなり広言している。また隠していたというほどのことではない。しかしかなり意図的に彼らの影響を受けたことを縮小して言っていたのは確かだ。
公式にカバーした曲は「ソー・ハウ・カム」一曲だけ。それもスタジオでの正式なレコーディング・ヴァージョンは無く、1963年のBBCライブで演奏しただけだ。
考えるに、ジョンとポールのあいだでは「エヴァリー・ブラザーズってあんまり言っちゃうととパクリだ!とか言われちゃうんじゃねえの?」というバイアスがかかっていたように思う。それほど初期のザ・ビートルズの曲には彼らに似ている曲がけっこうあるのだ。特にポールの施すコーラス・アレンジはかなりヤヴァいのが多い。
初期のポールの作曲。正直言って特筆すべき曲は少ない。ジョンに比べると弱い。「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」、「オール・マイ・ラヴィング」は出色のデキだが、他はどうにも印象の薄い曲が多い。やはりセカンド・アルバムまではジョンの存在感がすごい。
しかしそんなジョンの曲を抜群に引き立たせているのがポール、ジョージによるコーラス・ワークだ。ちなみにエヴァリー・ブラザーズは2声、ザ・ビートルズは3声。そこにはビートルズの面々の強烈な矜持を感じるが、、、。
しかしやはりエヴァリー・ブラザーズの影響はかなり色濃い。レコーディング時の会話などをアンソロジーシリーズなどで垣間聴くと、ほとんどが、ジョンのリードに対してまずポールが上のハモリを付け、そして3声目をジョージか付ける、というプロセスになっていたようだ。
ポールの意識にはかなりエヴァリー・ブラザーズのアンサンブルがあったようだ。ブレスを合わせアクセントを合わせ、ぴったりとくっつくようにハモる。そんな感じはモロに同じようだ。
ことハモリに関しては、ポールがイニシアティブをとっていたことがわかっている。ザ・ビートルズの曲の根幹を成す要素の一つ、ハーモニーはポールの力がとても大きかったと思う。
ザ・ビートルズは根本的にはロック・バンド。バンドの出音はかなりハードであった。
ポールはリトル・リチャードやチャック・ベリーのロックンロール要素を根幹に据えて、そこにバディ・ホリーの陽気さを加え、エヴァリー・ブラザーズのハーモニーを乗せる、極端に言えばそんな感じでザ・ビートルズの曲づくりを成してきたのだと思う。
後に「リボルバー」という大傑作アルバムに於いて、ポールの曲づくり能力は全開し、それまでとは全く違う展開を見せるのだが、初期のポール・マッカートニーは正直言って「リスペクトするアーティストの素晴らしいところを小器用に掻い摘んで曲づくりをする」ことに長けていただけのミュージシャンであった、といってもいいくらいなのかも知れない、と私は考えている。
天才ポール・マッカートニーも初めから「天才的スキル」を発揮できていたわけではない、と思うのだ。(この項終わり)